事故物件ロンダリングの意味を確認した上で、事故物件の心理的瑕疵に基づく賃借人への告知義務に関する過去の判例をご紹介します。
一般に、事故物件の告知義務は3年程度とされています。たとえ一時的な入居・退去があったとしても、事件から3年以内であれば、次の入居者への告知義務も残ります。
事故物件ロンダリングとは
事故物件ロンダリングとは、過去に自殺や他殺などが起きた事故物件を短期的に入居者へ賃貸し、その次の入居者には事故歴を伝えない行為を言います。最初の入居者へ事故歴を告知したことで心理的瑕疵の告知義務を果たした、とする不動産業界の暗黙のルールを背景にした行為です。
事故物件ロンダリングは、あくまでも不動産業界内の一部で見られる慣習であり、法的な根拠はありません。消費者保護の視点を欠いた行為でもあることから、もし裁判に発展した場合、当該行為は原則として認められません。
「1回住んだら告知義務がなくなる」は嘘
事故物件の賃貸における心理的瑕疵の告知義務期間は、3年が目安と規定されています。この間、たとえ入居者が何人入れ替わろうとも、賃貸契約の都度、事故物件である告知をしなければなりません。「1回住んだら告知義務がなくなる」という考え方は誤りです。
事故物件と告知義務に関する判例
平成19年8月10日東京地方裁判所判決
入居者の自殺により被った損害について、入居者の連帯保証人に損害賠償を請求する裁判が東京地裁でありました。
この裁判における損害賠償額の算定に際し、賃貸不能期間を1年、賃料が半額になる期間を2年としました。この算定基準から、事故物件における心理的瑕疵の告知義務期間は3年間と類推することができます。
東京高判 平31・3・14
賃借していた建物(会社の寮)の退去契約に際し、賃借人と賃貸人との間でリフォーム代等の折り合いがつかず裁判に発展した事案。賃貸人は、かつて寮の一室で殺人事件が発生したことも踏まえた金額を請求したものの、東京高裁は、①殺人事件が10年以上前のことであること、および、②裁判の段階で同物件における殺人事件の情報が世の中でさほど話題になっていない可能性があること、を根拠に心理的瑕疵を理由とした損害賠償は認められませんでした。
逆に言えば、殺人事件が人々の記憶に深く残っている衝撃的な事案であれば、たとえ10年以上前の事件だったとしても、心理的瑕疵を理由とする損害賠償が認められる可能性を示唆します。
まとめ
上記2つの判例から、事故物件の心理的瑕疵に基づく告知義務は3年程度と解釈できる一方、近隣住民の心に残るような衝撃的な事件だった場合には、その告知義務がより長期に及ぶ可能性があることも分かります。
事故物件の取扱いに関する解釈は非常に難しく、物件オーナーの自己解釈のみで事を進めることにはリスクがある、難しい問題ですのでプロに相談することをおすすめします。

